研究 (Research)
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歯髄炎の克服を目指した新しい歯髄保存療法の開発 (Novel vital pulp treatment to overcome pulpitis)
講師 高橋 雄介 (歯学部附属病院 保存科)、教授 林 美加子(歯学研究科 歯科保存学講座) TAKAHASHI Yusuke (Dental Hospital), HAYASHI Mikako (Graduate School of Dentistry)
研究の概要
う蝕に継発して発症する歯髄炎は重篤な自発痛を誘発するが、その治療法はいまだに歯髄除去療法(抜髄)が適用されており、歯髄を保存したまま回復させるような治療法は存在しない。その要因の一つとして歯髄炎の実験モデルが欠如していることが挙げられ、本研究ではラットにう蝕を誘発し、その進行に応じて覆髄実験を実施することで、可逆性 / 不可逆性歯髄炎を再現性高く発症させる動物実験モデルの確立に成功した。また本研究グループは、歯髄の自己修復能を賦活化するとともに抗炎症作用を発揮する機能ペプチドを発見し、歯髄炎に陥った歯髄に対しても歯髄保存療法を施術できる可能性が示唆された。
研究の背景と結果
現在の歯科医療において、う蝕が進行し不可逆性歯髄炎に罹患した歯は、歯髄を一部または全部除去する治療法しか選択できない。また歯髄炎の臨床診断は、患者の疼痛情報をもとに実施されるが、疼痛は主観的かつ個人差が大きいことから、客観的かつ正確な歯髄診断は現在も困難である。
歯髄診断が困難である理由の一つに、歯髄炎の標準的な実験モデルが存在していないことが挙げられるため、本研究ではう蝕由来ラット歯髄炎実験モデルの構築に取り組んだ。その結果、中等度う蝕では歯髄組織に M2マクロファージを中心とした分布が認められたのに対し、深在性う蝕では M1マクロファージが優勢であった。また、中等度のう蝕において歯髄に生じた炎症に対して覆髄実験を実施すると、覆髄部に硬組織形成が認められるとともに炎症は消退したことから、中等度う蝕は可逆性歯髄炎を誘発することが明らかとなった。
一方、深在性う蝕を対象に覆髄を実施したところ、硬組織形成はある程度認められたものの、歯髄には炎症が残存したため、深在性う蝕は不可逆性歯髄炎を発症していることが示された(図1)。これらの結果から、ラットう蝕由来の可逆性・不可逆性歯髄炎モデルの確立に成功した。
一方、歯髄は自己修復能をもつことが知られており、その修復能は象牙質に含有される有機成分により誘導されることをわれわれはこれまでに報告し、そのメカニズムに基づいた次世代覆髄材の開発に取り組 ん で き た。そ の 結 果、象 牙 質 に 存 在 す る タ ン パ ク 質 Protein S100A8由来の機能ペプチド(アミノ酸配列:KLLETECPQ)が、覆髄後の歯髄組織で硬組織形成を促進することをラット動物実験モデルで示し(図2)、さらに本ペプチドは抗炎症作用を有することが明らかとなった。
現在、ラット歯髄炎モデルを対象として、歯髄炎の正確な術前・術中診断を目指した客観的な検査法に関する研究、および機能ペプチドを用いた歯髄保存療法の効能について検討を継続して実施中である。


研究の意義と将来展望
本研究成果により、これまで歯髄保存療法の適応外であった不可逆性歯髄炎を克服できる可能性が示された。今後、ラットう蝕由来歯髄炎モデルを詳細に解析することで、これまで歯髄炎の診断基準に用いられてきた主観的な感覚である「痛み」に依存しない、客観的かつ正確な診断方法の開発へと発展させていく予定である。さらに、歯髄炎に特異的なバイオマーカーの探索を実施することで、歯髄炎の病態についてもさらに検討を重ねていく。これらの研究により、歯髄炎の術前ならびに術中診断および治療も包含する、次世代歯髄保存療法の実現を目指すとともに、さらなる歯の長期保存へとつなげていきたいと考えている。
担当研究者
講師 高橋 雄介 (歯学部附属病院 保存科)、教授 林 美加子(歯学研究科 歯科保存学講座)
キーワード
可逆性歯髄炎/不可逆性歯髄炎/う蝕由来歯髄炎動物実験モデル/歯髄保存療法/機能ペプチド
応用分野
医療・ヘルスケア、創薬
参考URL
https://www.dent.osaka-u.ac.jp/conserve/conserve-2707
https://researchmap.jp/read0210127
https://researchmap.jp/read0185244
