研究 (Research)

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ネット社会における人々の分断と差別に関する調査研究(Survey Research on Divide and Discrimination Among People in the Internet Society)

教授 辻 大介 (人間科学研究科 社会環境学講座) TSUJI Daisuke (Graduate School of Human Sciences)

  • 人文学社会科学系 (Humanities and Social Sciences)
  • 人間科学研究科・人間科学部 (Graduate School of Human Sciences, School of Human Sciences)

研究の概要

インターネットの普及とその技術的発達によって、人々はより容易に好きな情報にアクセスし、好きな相手とつながれるようになった。しかしそのことはまた、自分と異なる意見や興味関心から外れるニュースへの接触機会に乏しい「フィルターバブル」を生み、考えの似た者同士だけがつながる閉鎖的な「エコーチェンバー」(図1)が形成されやすくなったことを意味する。そのため、社会集団間の分断が進み、マイノリティの排除・差別が深刻化するのではないか、とも懸念されている。本研究はこの問題に実証的に取り組み、全国規模の調査を複数回実施して、データの統計解析を進めてきた。

図1 「エコーチェンバー」の概念図

研究の背景と結果

2016年のアメリカ大統領選、イギリスの EU 離脱国民投票以来、自由主義圏の先進諸国では、市民社会の「分断」が問題視されるようになった。アメリカでは共和党支持の保守派と民主党支持のリベラル派の深刻な対立が今なお続く。日本でもSNS上での急進的な右派と左派の摩擦、「炎上」が目につく。こうした分断現象の背景には、1980年代末の冷戦体制崩壊による政治情勢の中長期的変化や、経済競争と人口移動のグローバル化の進行などが存するが、インターネットの市民生活への浸透と技術的発達もまた、エコーチェンバー等の形成を通して影響を与えているのではないかと目されている。それらネット社会における分断は、いくつかの位相に分けて考えることができる。
ひとつは、政治的党派性にもとづく分断である。右派はネットで右派の情報や意見ばかりに接触し、あるいは、専ら右派同士でつながることで、対立する見解を等閑視するようになる。左派も同様にして、それぞれが自らの政治的指向性を極端化させていき、折り合いがつかなくなる。このようなイデオロギー的分極化はアメリカ市民の間では顕著だが、日本では確認されておらず、本研究のこれまでの調査でも、ネット利用によって憲法改正等の政策課題の賛否が分極化するという分析結果は得られていない。
ただし、ネット利用が政治家に対する好悪を分極化する効果は部分的に認められた。これは、ネットでの情報接触等が主に感情・情動を介して作用する可能性を示唆している。そのこととも関連して、ネット利用が在日外国人への排外意識を助長し、現代的レイシズム・現代的レイシズムと呼ばれる偏見を強める因果的効果をもつことも確認された。つまり、内集団の外集団に対する敵対感情を煽るような効果をネット利用はもちやすいと考えられる。この点については、感情的分極化研究や認知科学の二重過程理論などを参考にしつつ、今後さらに研究を進める予定である。

研究の意義と将来展望

本研究は、インターネットという情報通信技術の普及・発達の及ぼす影響を、人々の情報接触/関係形成/市民参与/社会意識という4つの局面に大別してとらえ、それらの相互作用の帰結として社会的分断の生じる可能性を検討する(図2)。その知見は、現在進行形の社会問題に対して学術的解答を与えるとともに、エビデンスベースドの政策立案にも寄与するものと考えられる。また、アメリカを中心とした先行研究に対し、社会文化的背景を異にする日本で得られた知見は、インターネット利用が人々に影響を及ぼすプロセスについて再考し、新たな研究展開につながる可能性をもつ。

図2 本研究のスキーム

担当研究者

教授 辻 大介 (人間科学研究科 社会環境学講座)

キーワード

市民社会、民主主義、情報通信技術、分極化、社会関係資本

応用分野

コミュニケーション、情報通信政策、社会調査

参考URL

https://d-tsuji.com/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2025(未来社会共創を目指す)より抜粋・修正したものです。