研究 (Research)
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高品質遺伝子治療用ウイルスベクターの製造・品質管理と提供 (Manufacturing, quality control and supply of high-quality virus vectors for gene therapy)
教授 内山 進 (工学研究科 生物工学専攻) UCHIYAMA Susumu (Graduate School of Engineeringa)
研究の概要
近年、欧米を中心に遺伝子治療が実用化段階に入り複数のウイルスベクター製剤が認可されている。また、関連した臨床開発が急加速で進んでおり、安全性・有効性が明確になるに伴い、次世代の革新的医療として遺伝子治療に大きな注目が寄せられている。本研究では、我々が持つ世界トップレベルのベクター品質分析とプロセス開発技術を基盤に、臨床試験を見据えた創薬、非臨床試験、実用化を見据えた臨床試験、に使用可能な高品質ベクターを製造し、必要とする研究者や治験を主導する医師や企業に高品質ベクターを安定に提供可能な体制を構築することを目指している。
研究の背景と結果
我々は、遺伝子治療の中でも世界的に最も開発が進められているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを中心に研究開発を進めている。AAV ベクターは、3種類の蛋白質から構成される正二十面体の外殻(カプシド)に最長で5kb 程度までの一本鎖 DNA が内包された蛋白質核酸複合体である。ウイルスとしてはシンプルな構成であるものの、ウイルスベクター製造技術は未完成であり、世界中で開発が進められている。ウイルスベクター製造では、ヒト細胞と遺伝子組換えを中心としたベクター産生、物理化学的原理に基づく分離精製、幅広い品質分析、といった複合的なバイオテクノロジー技術が必要となる。一方、技術開発の速度が速く手法が多様化している現在では、総合的な研究開発の実行の難易度が上がっており、高品質のベクター製造・提供は国内では実現できていない。
本研究では、我々が有する世界有数の蛋白質複合体の解析技術を軸として、ベクター製造を高い技術レベルで効率的かつ経済的に進めている。特に、超遠心分析によるサイズ分布評価では、複数の光学系および多波長検出による解析法を開発し、ウイルスベクターで課題となっている中空粒子などの不純物成分の定量解析に世界ではじめて成功し、開発技術による臨床試験用ベクター評価を予定している。さらに、細胞破砕物などの夾雑物存在下でのベクター品質評価も可能としており、ベクター製造のプロセス開発に利用している。他にも、電荷検出質量分析法の開発や、クライオ電子顕微鏡により取得したベクター画像の深層学習を利用した評価法開発を行っており、各手法を高品質のベクター製造と品質管理に活用している。高度品質分析は新規ベクターの開発にもつながっている。例えば、カプシド蛋白質への変異導入により野生型とは蛋白質の化学量論比が異なり、その結果、活性が野生型よりも高いAAVベクターを創出することにも成功している。
研究の意義と将来展望
遺伝子治療により従来は治療法が無かった遺伝性疾患の治療が実現され、日本でも本格的な取り組みが期待されている。大阪大学を始め、我が国は遺伝子治療の基礎研究で世界有数の成果を上げている。一方、国内では産業につながる臨床開発は容易ではない状況にある。この原因として、国内における遺伝子治療用ベクターの製造と品質管理の技術開発とインフラ整備の遅れがあり、「臨床試験をしたくても試験に用いるウイルスベクター製剤が手に入らない」という危惧すべき状況になっている。本研究は、産業化を見据えた確実で高いレベルの科学技術に立脚しており、我が国における遺伝子治療の推進と発展に貢献するものである。


担当研究者
教授 内山 進 (工学研究科 生物工学専攻)
キーワード
遺伝子治療/ウイルスベクター/抗体医薬/品質分析/バイオテクノロジー製造
応用分野
医療、製薬
参考URL
https://macromolecularbiotechnology.com/
https://researchmap.jp/read0090387
