研究 (Research)
最終更新日:
科学技術をめぐる市民参加
教授 八木 絵香 (COデザインセンター/社会技術共創研究センター)
研究の概要
科学技術に関わる社会的に重要な課題について、幅広い人々が参加して議論し、その結果を社会的意思決定につなげる「科学技術への市民参加」の取り組みが、日本を含む世界各地で広がっています。この考え方は、科学技術・イノベーション基本計画において重要な目標として掲げられる「市⺠参画など多様な主体の参画による知の共創と科学技術コミュニケーションの強化」にも通じるものです。このような観点から、多様な科学技術をめぐる社会課題の解決に向けて、実践を通じた市民参加の方法論および研究手法の開発を行っています。
研究の背景と結果
近年は特に、社会全体の縮図となる参加者が集って議論を行う「ミニ・パブリックス」と総称される取り組みのうち、気候市民会議に着目した研究を行っています。気候市民会議とは、社会全体の縮図を構成するように無作為で選出された人たちが、専門家からバランスの取れた情報提供を受けながら、数週間から数か月かけて気候変動対策について議論する市民会議です。2019 年から主に欧州各国で行われるようになり、日本でも 2020 年に著者らが札幌で初めて試行したのち、各地で行われるようになりつつあります。
気候市民会議に代表されるミニ・パブリックスのあり方には、以下に示すような4つの特徴があります。
① 参加者を社会全体(ある町や地方,国全体など)の縮図となるように集めること
② バランスのとれた情報提供を行うこと
③ 参加者全体および、小さなグループに分かれての熟議を行うこと
④ 提言や勧告などの形で意見を取りまとめたり、投票や、質問紙調査によって全体の意見を把握し、その結果を公表すること
筆者は、特に③の場面において、グループでの話し合いに慣れていない参加者も議論に参加しやすいように、ファシリテーター役を担うことに多様な経験と知見を有しており、科学技術社会論や臨床哲学の知見に基づく対話のあり方の検討を研究対象としています。
この種の市民参加の場においては、情報提供を踏まえつつ、参加者が自分とは異なる意見に触れることで、各参加者の意見が深まりつつ、変容したり、新たな意見が生み出されることこそが肝要です。同時に、ファシリテーターには、議論を活性化しつつも、特定の方向に話を誘導しないようにすることが求められるため、それらのスキルを身につけるための教育方法についても研究対象としています。
また、ミニパブリックスの手法に限定せず、異なる専門性・価値観・利害・立場を持つ人が集い、対話する場を創り、観察・分析し、社会的インパクトをもたらすことを念頭において、気候変動問題のみならず、食品安全やエネルギー問題、さまざまな事故や災害の被害からの回復プロセスの構築を対象とした実践研究を行っています(図参照)

研究の意義と将来展望
気候変動を始めとする環境問題や、原子力技術を含むエネルギー問題、生成 AI 等の新たな科学技術が生み出す社会的影響などの課題について、市民参加による議論を促し、そこで得られた知見を政策決定などに生かすためには、方法論や評価手法の開発はもちろんのこと、それらの取り組みを社会のさまざまなステイクホルダーと協働で実践し、そしてその知見を更新し、発信し続けることが肝要です。そのような観点からウェブサイト「https://citizensassembly.jp(科学技術の問題を市民参加で考える)」を運営し、多様な実践活動を紹介すると共に、それらの実践を通じて得られた知見を社会に発信しています。これにより、実践者・研究者等のネットワークを構築し、科学技術への市民参加の社会的定着に寄与することを目指しています。
担当研究者
教授 八木 絵香 (COデザインセンター/社会技術共創研究センター)
キーワード
科学技術への市民参加/科学技術コミュニケーション/気候市民会議
応用分野
科学技術への市民参加、科学技術コミュニケーション、事故と災害の心理学
