研究 (Research)
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結晶化溶媒を変えるだけで低・高誘電性の両方を示す有機分子結晶の開発 (Development of organic molecular crystals exhibiting both low and high dielectric properties by changing the crystallization solvent)
准教授 燒山 佑美 (工学研究科 応用化学専攻) YAKIYAMA Yumi (Graduate School of Engineering)
研究の概要
我々は、固体中で「お椀型」に由来した特徴的な一次元カラム構造の形成および面内振動運動を示し、さらに溶液中で「お椀反転運動」とよばれる挙動を示す曲面分子フルオロスマネンを基盤に、結晶化溶媒を変えるだけという極めて簡便な手法で、単一分子のみで最大104オーダーに至る誘電率変調を示す材料の創製に成功した。量子化学計算および分子動力学シミュレーションの結果、この現象は溶液中におけるターゲット分子が示すお椀反転に基づく平衡挙動と結晶核形成が、結晶化溶媒との溶媒和により影響を受けることで生じるものであることが明らかとなった。
研究の背景と結果
近年、従来の誘電体材料開発の主役であった無機物・高分子材料に加え、有機低分子を主体とした結晶性誘電体材料への注目が集まっている。有機物では、その分子集合様式や分子間に働く様々な相互作用を化学的に制御することで、柔軟かつプリンタブルな材料を作ることも可能になる。
曲面分子スマネンにフッ素を1つ導入したモノフルオロスマネン(FS)は溶液中でボウル反転運動により、フッ素の向きに応じて向きと大きさの異なる双極子モーメントを持つ2種類の異性体 FSendo と FSexo 間での平衡状態にある(図1)。このとき、わずかに FSendo がエネルギー的に安定であるため、溶液中では FSendo を過剰に含むジアステレオマー混合物として存在する。一方、結晶状態においては FSendo と FSexo の組成比は結晶化の際に用いる溶媒に応じてさまざまに変化することがわかった。例えば、極性溶媒である DMF(ジメチルホルムアミド)を用いると、溶液中とは異なり FSexo が大過剰に含まれる結晶が得られた一方、より低極性のジクロロメタンを用いると、両者がほぼ1:1で存在する結晶が得られた。誘電スペクトル測定の結果、前者は Debye型の誘電緩和現象を示すのに対し、後者は非常に大きな誘電率(>10000)を示した。
こうした結晶化溶媒がもたらす変化のメカニズムを明らかにするために、量子化学計算および分子動力学シミュレーションを用いた解析を行った結果、2つの要因が示された(図2)。一つ目は FSexo がより結晶構造中に導入されやすいという、フッ素原子の位置にともなう結晶核形成にかかる分子間の立体反発度合いの違いに基づくもの、もう一つは、溶媒和による安定化の寄与の違いである。溶媒和にかかる自由エネルギーを解析すると、DMF 中では FSendo に比べ FSexo がより大きな安定化を受ける一方、ジクロロメタン中では各異性体への安定化は同程度であることがわかった。つまり、FSexo が結晶中により取り込まれやすいという傾向に加え、溶媒和による安定化の度合いの差が、今回観測された結晶内の FSendo/FSexo 存在比に反映されていると考えることができる。今後各分子に対する溶媒和自由エネルギーを分子動力学シミュレーションによって計算し、適切な溶媒系を選択することで、望む FSendo/FSexo 存在比を持つ結晶の作成も可能になると期待できる。


研究の意義と将来展望
104オーダーに至る誘電率の実現は純有機物材料では珍しく、加えて結晶化溶媒を変えるだけで単一分子のみから低誘電性・高誘電性の両方の発現を達成出来る点で、フルオロスマネン類は省エネルギー誘電性有機結晶材料として、高いポテンシャルを秘めているといえる。また、フルオロスマネン類は極性結晶を与えるという特徴も有しており、今回見いだされた特異な誘電特性と組み合わせることで多機能材料としての展開も可能になると期待できる。
担当研究者
准教授 燒山 佑美 (工学研究科 応用化学専攻)
キーワード
有機結晶化学/曲面π共役系/誘電応答性/フッ素・ボウル反転
応用分野
次世代情報通信、スマートデバイス、メモリー材料
参考URL
https://www-chem.eng.osaka-u.ac.jp/~sakurai-lab/
https://sites.google.com/view/yumi-yakiyama/
https://researchmap.jp/yumiyakiyama
