研究 (Research)
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ヒト頭蓋内脳波による自己生成的思考の神経メカニズム解明 (Neural mechanisms of self-generated thoughts elucidated by human intracranial EEG)
教授 栁澤 琢史 (医学系研究科 神経情報学) YANAGISAWA Takufumi (Graduate School of Medicine)
研究の概要
Sharp-Wave Ripple(SWR)は、記憶の定着を担う海馬の活動で睡眠中に多く発生する。SWR に関して実験動物での報告は散見されるが、特にヒトにおいて、覚醒時の機能は明らかでなかった。そこで我々はてんかん患者の術前検査目的で計測した約10日間のヒト頭蓋内脳波を解析し、ヒト海馬の SWR と思考状態との関係を調べた(図1A)。その結果、ヒト SWR には睡眠―覚醒リズムがあり、覚醒中の変動はマインドワンダリングと関連することを明らかにした。
研究の背景と結果
Sharp-Wave Ripple(SWR)は、海馬で観測される同期的な神経細胞の活動パターンで(図1B)、特に睡眠中に多く発生し、短期記憶を長期記憶に変換する記憶の定着に重要な役割を果たすと考えられている。SWR は多くの動物種に共通して観察されるため、その機能について多くの動物実験がなされてきた。また、覚醒時にも SWR は発生し、動物では無動時に生じやすい。しかし、動物では無動時の内的状態を推察することは難しく、SWR と覚醒時の思考状態との関係は明らかではなかった。
ヒトの思考状態は日常生活中も大きく変化する。中でも、目の前の課題に集中できず別のことを考える状態、いわゆる「マインドワンダリング(MW)」と呼ばれる自己生成的思考状態は、日常生活の約30%の時間を占めるとされる。我々は、MW を含めたヒトの日常的な思考や感情は SWR と関係するという仮説の下、海馬から頭蓋内脳波を計測されるてんかん患者10名を対象にヒトの内的状態と SWR の関係性について検討した。最大15日間に渡って頭蓋内脳波を計測し、同時に前腕に装着したウェアラブルデバイスから身体活動データ(心拍間隔、皮膚電位、加速度、血液容積脈波)を計測し、さらに思考・感情内容を17項目の質問で評価した(図1A)。
海馬の頭蓋内脳波から SWR を検出した(図1B)。SWR の発生頻度を全患者間で平均し、日内変動を検討したところ、SWR 頻度は夜間に増加、朝になると減少し、食事をするタイミングに一致して減少することが示された。次に身体活動データと思考・感情データから SWR 頻度の変動を説明する一般化線形混合効果モデルをそれぞれ構築した。各モデルはランダムデータと比較してどちらも有意に説明されていたが、思考・感情データを用いたモデルは身体活動データのモデルよりも精度が高く、また、目の前の課題に集中ができていない状態、つまりMW の状態が SWR の変動に最も寄与していることが示された(図1C)。

A)頭蓋内脳波計測中の患者からタブレットでの思考調査にて思考内容を評価した。また、ウエアラブルデバイスにより身体活動状態を同時計測し保存した。B) 海馬より計測した頭蓋内脳波からSWRを検知した。SWRは高周波数のリップルと鋭波(sharp-wave)からなる特徴的な波形である。C) 17項目のアンケートに対する答えからSWRの頻度を推定する一般化線形混合効果モデルの重みを比較した。
研究の意義と将来展望
マインドワンダリングなどの自己生成的思考は、ヒトの思考状態の3割を占めるとされ、創造性や気分障害との関連も指摘されている。しかし、日常生活において、どのように自己生成的思考が生じるか、そのメカニズムは明らかになっていない。本研究成果は、記憶機能に重要な役割を果たす SWR とマインドワンダリングとの関係を示すことで、自己生成的思考のメカニズム解明とその調整技術の可能性を示すことができた。今後、同様の計測系を介して、ヒトの思考状態が自己生成されるメカニズムの解明と、創造性などヒトらしい高次脳機能の解明が期待される。また、SWR はてんかん、記憶障害、認知症、統合失調症などの神経精神疾患との関連も報告されている。SWR を制御する技術は、これらの疾患の治療にも繋がると期待される。
担当研究者
教授 栁澤 琢史 (医学系研究科 神経情報学)
キーワード
海馬/頭蓋内脳波/Sharp-wave ripple/自己生成的思考/ブレインコンピューターインターフェース
応用分野
医療、神経科学、ブレインコンピューターインターフェース
参考URL
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/nsurg/yanagisawa/
https://researchmap.jp/takufumi
https://researchmap.jp/takamitsuiwata
