研究

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物理的形状と主観的形状の差の数量的測定

教授 森川 和則(人間科学研究科)

  • 人文学社会科学系
  • 人間科学研究科・人間科学部

研究の概要

デザインで商品の大きさや形が変わって見えたり、服装や化粧で体型や顔が変わって見えたりする現象を実証的・数量的に測定することで、その視覚効果を科学的に検証した。具体的には、自動車の昼間走行ランプに起因する車幅の錯視、服の色により体型が何cmスリムに見えるか、シャツの裾をスカートの中に入れると体型が何cmスリムに見え脚の長さが何cm長く見えるか、アイメイクにより目の大きさが何%変わって見えるか、マスクの着用や口紅により顔肌が何%明るく見えるか、マスクの着用やいわゆる小顔化粧により顔が何%小さく見えるか、などを厳密な視覚心理学実験により実証的・数量的に実証した。

研究の背景と結果

人間の目に見えている「現実」はすべて脳が視覚入力を解釈し推測した結果であるが,その推測はあまり正確ではなく,しばしば物理的現実と主観的現実との間にはズレがある。そのズレが顕著に現れたものが錯視である。文化・文明の中には意識せずとも錯視を積極的に活用している分野もある。その代表格は服装と化粧であるが、自動車などの工業デザインにも錯視は活用できる。視覚心理学の分野で用いられる心理物理学的測定法により錯視量を科学的に測定すれば、商品開発やデザインの改良に役立てることができる。
自動車の昼間走行ランプ(Daytime Running Lamps)は前照灯(ヘッドランプ)付近に設置される。このランプの形状により自動車の幅の知覚が影響される可能性を実験で検証した結果、ミュラー・リヤー錯視による過大視・過小視の効果が確認された。さらに、ランプの屈曲部の位置とランプの重心の位置が外側にあれば幅が広く見え、内側にあれば狭く見えることが判明した(図1)。コンピューターグラフィックスで作成した3D人体モデルを用いた実験により、服装で体型が何%変わってみえるかを測定する実験を行なった。白いシャツ・スカートと比べて同形の黒い服ではバスト・ウェスト・ヒップがそれぞれ1.8cm細く見え、それとは独立に、シャツの裾をスカートの中に入れる(タックインする)とさらに1.3cm細く見えることがわかった。また、上下の色が異なる場合に、シャツの裾をスカートの中に入れると脚が7cmも長く見えることが実証された(図2)。目の化粧(アイメイク)にはアイライン、アイシャドウ、マスカラなどが使われる。目を大きく見せることは女性の顔の魅力を高める。そこで、どのようなアイメイクで目が何%大きく見えるのかを測定する実験を行なった。その結果、通常のアイメイクでも目を5~7%(面積比で10~14%)大きく見せることが判明した。また、過度なアイメイクは錯視量を減少させることもわかった(図3)。

図1
図2
図3

研究の意義と将来展望

デザインにより商品が実際より大きく見えたり、服装で体型が着やせして見えたり、化粧により顔の印象が良くなる現象は古くから知られてはいたが、今までは主観的な言葉で語られるにとどまっていた。実はこれらの現象は目の錯覚「錯視」を活用している。私たちは視覚心理学の心理物理学的測定法を用いて日常生活の中の錯視量を実証的・数量的に測定してきた。服装や化粧は市場規模も大きいので、現実と見た目のずれを定量測定できる研究の実用的意義は大きい。さらに自動車などの工業デザインにおいても様々な錯視が影響しているので、その解明は今後有望な未開拓の分野である。

担当研究者

教授 森川 和則(人間科学研究科)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2017/g007636/

キーワード

錯視/視覚/デザイン/化粧/服装

応用分野

デザイン/化粧/ファッション

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。