研究

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ヨウ素触媒による完全立体制御ジアミン合成

教授 南方 聖司(工学研究科 応用化学専攻)

  • 医歯薬生命系
  • 微生物病研究所

研究の概要

資源の少ない日本が誇れる元素であるヨウ素(世界第二位の産出量)を触媒として活用し、不活性な炭素−炭素二重結合の完全立体選択的なアンチおよびシンの1,2- ジアミノ化反応の開発に成功した。これにより、隣り合う炭素に窒素原子ユニットをもつ化合物の全てのジアステレオマーの合成とそれらの作り分けに世界で初めて可能にした(図1)。

図1. ヨウ素触媒による立体特異的な1,2- ジアミノ化反応

研究の背景と結果

1,2- ジアミン骨格は、医薬品や機能性物質の重要な部分構造であることから、様々な合成手法が開発されてきた。中でも炭素−炭素二重結合(アルケン)に2つのアミノ基ユニットを導入する方法は、最も直接的で多様性ある1,2- ジアミンの合成法である。このような観点に基づき、10年ほど前から全世界的にアルケンのジアミノ化法の開発が精力的に進められてきた。しかし、原料であるアルケンの一般生の欠如、導入する窒素ユニットの特殊性、さらには平面構造のアルケンから三次元構造のジアミンへと変換する際の立体化学の無制御などの多くの問題点が残されていた。本研究ではこれらの改善すべき課題を克服するのみならず、環境低負荷型の反応の開発を目指し、これまでの手法で用いられていた遷移金属触媒や高価な酸化剤を必要としない反応系を確立することができた。即ち、我が国が誇れる資源であるヨウ素を触媒として、入手容易な窒素源であるo – ニトロベンゼンスルホンアミドおよび固体状の次亜塩素酸ナトリウムを酸化剤に用いるだけで、多種多様なアルケンのアンチジアミノ化が効率良く進行することを見出した。さらに、シンジアミノ化法も開拓することができれば、より多様性ある1,2- ジアミンの合成が可能となる。そこで、分子内に2つの窒素ユニットを有するアミノ源を設計・合成し、アンチジアミノ化とほぼ同様の反応条件で検討することにより、完全にシン付加で進行する反応を開発することができた。有機合成化学の歴史において、炭素資源へ導入する元素として、まず「酸素」が注目され開発されてきた。アルケンに2つの酸素ユニットをアンチで導入する方法が1933年に開発され、またシンで導入する反応が1958年に見出され、それぞれPrévost 反応およびWoodward 反応と呼ばれている。医薬品や有機材料などにおいて、酸素についであるいは同じくらい重要な元素である「窒素」をこの形式でアルケンに導入する方法は、今後必ず使われる反応となるであろう。

研究の意義と将来展望

1,2- ジアミン骨格は、例えばタミフル®、リレンザ®およびイナビル®️などの抗インフルエンザ薬やビオチンなどの天然物および金属触媒の配位子などに含まれる非常に重要な部分構造である(図2)。そのため、このユニットの立体化学を完全にコントロールできる本手法は極めて意義深い有機合成の方法論である。また、本反応は希少な遷移金属触媒も用いず、反応後の副生物は水と塩化ナトリウム(塩)のみであり、物づくりの手法として持続可能な社会に貢献できる。上述した抗インフルエンザ薬を含む現在使用されている医薬品の中には、1,2- ジアミン骨格を有する生理活性物質が多く見受けられる。現在切望されている新型コロナウイルスの特効薬にこのユニットが必要かどうかは不明ではあるが、これまでになかった反応の開発は、新しい物質を迅速に合成することを可能にし、新薬の候補化合物群の合成を加速できる。

図2. 1,2- ジアミン部位を有する機能物質の例

担当研究者

教授 南方 聖司(工学研究科 応用化学専攻)

キーワード

1,2-ジアミン/ヨウ素触媒作用/立体特異性/アルケン

応用分野

創薬/機能性材料

参考URL

http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~minakata-lab/
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210316_4
https://www.chem-station.com/blog/2021/07/amine.html
https://www.thieme.de/statics/dokumente/thieme/final/en/dokumente/tw_chemistry/CFZ-Synform-Diastereodivergent-Intermolecular-Diamination_LitCov.pdf

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。