研究 (Research)
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進行食道癌に対する術前化学療法後の腫瘍遺残パターンとその意義 (The pattern of residual tumor after neoadjuvant chemotherapy for locally advanced esophageal cancer and its clinical significance)
助教 牧野 知紀、教授 土岐 祐一郎(医学系研究科 消化器外科学) MAKINO Tomoki , DOKI Yuichiro(Graduate School of Medicine)
研究の概要
進行食道癌の標準治療である術前化学療法の効果は、これまでその腫瘍縮小割合から組織学的効果として分類されるのみで、その遺残パターンについては詳しく解明されていませんでした。本研究では術前化学療法の治療効果が高かった多数の食道癌切除標本を用いて食道壁における腫瘍遺残部位を病理学的にすべてマッピングすることで、腫瘍の遺残パターンを大きく4つに分類し特徴的な臨床病理学的因子や再発パターンを検証しました。腫瘍遺残パターンが、粘膜層~粘膜下層の浅い層に最も多い一方で、表層(粘膜層)から腫瘍が消失しているケースも約4割に認められました。また、同じ治療効果を得られても、筋層~外膜の深い層に遺残している症例や粘膜層~外膜までびまん性に遺残している症例では、遠隔転移や播種再発のリスクが高いことを明らかにしました。
研究の背景と結果
進行食道癌に対しては術前化学療法が標準治療ですが、化学療法の奏効の程度については切除検体における腫瘍の減少割合を病理学的に評価するのが一般的です。しかし化学療法による腫瘍の減少割合が同程度でも、術後の治療成績が異なることがあります。そこで、われわれは食道癌切除検体を病理学的により詳細に解析することで、化学療法で腫瘍が遺残する部位の分布を調べ、そのパターンの特徴と治療効果について検証しました。診断時に腫瘍が食道壁の全層にわたって存在する進行食道癌で、化学療法の効果が高かった症例(腫瘍がもとのサイズの1/3以下に縮小)における手術切除標本120例の全切片を病理学的に検討し、腫瘍が遺残している部位を標本ごとに正確にマッピングしました(図1)。この結果、術前化学療法後の食道癌の腫瘍遺残部位は浅層(粘膜層~粘膜下層)に約4割と最も多いものの、表層 (粘膜層)から腫瘍が完全に消失しているケースも約4割に認められることが明らかとなりました。これは、食道壁内での血流分布の違いや腫瘍不均一性、或いは化学療法のがん局所への運搬動態の違いが関与していることを示唆する結果でした。さらに食道壁の層別に腫瘍遺残分布を検討し、マッピングした腫瘍遺残パターンを Type 1(浅層)、Type 2(中央)、Type 3(深層)、Type 4(びまん性:まんべんなく存在)の4つに大きく分類しました(図2)。その分類を、化学療法後の内視鏡検査画像と合わせると、Type1は表層型、Type3と Type4は潰瘍型の肉眼型が多い所見でした。また、びまん性遺残タイプ (Type4) では、化学療法後の術前の PET 画像において、がん細胞の活指標である SUVmax が高く、切除した病理標本で静脈侵襲が多いという特徴がありました。また Type3と Type4では、術後に、播種(胸部・腹部に散在)や遠隔転移による癌の再発が明らかに多いことが分かりました。
研究の意義と将来展望
本研究成果により、進行食道癌の標準治療である術前化学療法後の腫瘍の遺残パターンとそれらの特徴が明らかとなりました。術前化学療法が奏効し内視鏡画像上、一見がんが消失したように見えるケースでも食道壁の深くに腫瘍が遺残していることも多く、また深部やびまん性に遺残するケースは術後の播種再発や遠隔転移が多いため追加治療や慎重なフォローが必要となる可能性があります。これらの知見から、個々の食道癌症例に適したオーダーメイド治療が可能となり、食道癌全体の治療成績の向上につながることが期待されます。
担当研究者
助教 牧野 知紀、教授 土岐 祐一郎(医学系研究科 消化器外科学)
キーワード
食道癌/術前化学療法/遺残形式
応用分野
医療/ライフサイエンス/病理