研究

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カーボンナノチューブ凝集構造上の温度分布の可視化

特任研究員 濱﨑 拡、准教授 平原 佳織(工学研究科 機械工学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

カーボンナノチューブは、現在までに開発された材料中で最高レベルの熱伝導性を有し、素材の軽量さや柔軟性も相まって、次世代の熱エンジニアリング候補材料として広く注目を集めている。しかしながら、実用に便利な大きさを得るため凝集体構造を成すと、その熱特性は大きく低減されることが知られている。我々は、凝集体における熱特性低下の機構を微視的な観点から理解するため。ナノメートルスケールでの温度分布の可視化を行い(図1)、ナノチューブが最密に配向した凝集体においても、ナノチューブ同士の界面で大きな熱抵抗を生じ、凝集体中に不均一な温度分布が形成されることを明らかにした(図2)。

図1 実験の模式図
図2 異方的に加熱されるナノチューブ凝集構造

研究の背景と結果

カーボンナノチューブは、単一の状態で優れた熱伝導性を示すナノマテリアルであるが、マクロな集合体を形成すると、その熱伝導性は大きく低減されることが知られている。その原因として、集合体中の空隙によるナノチューブ密度の低下や、集合体中に含まれるナノチューブ界面の高い熱抵抗の影響などが指摘されているが、従来のマクロな試料においては、それらナノチューブ密度や界面の状態などが局所的に異なっており、熱動態の統一的な理解は難しい。本研究では、透過電子顕微鏡を用いて、ナノチューブ集合体の基本的な構成要素であるナノチューブバンドル上に形成される温度分布を調べた。ナノチューブバンドルは、個々のナノチューブがファンデルワールス力により互いに凝集し、最密に配向した構造をとっている。表面に金属ナノ粒子を分散させたバンドルを局所的に加熱し、金属ナノ粒子の状態変化を温度マーカーとして利用することにより、ナノメートルサイズのバンドル上に形成された温度分布を可視化した(図1)。その結果、バンドル上の高温域は、個々のナノチューブの軸がそろった方向に長く広がり、対照的に、ナノチューブ界面を横切る方向には広がらないことがわかった(図2)。
この顕著な異方性は、ナノチューブ間界面が、最密に密着した状態であっても大きな界面熱抵抗を持つことを示している。観測結果と有限要素法による計算を比較した結果、ナノチューブ軸方向の熱伝導率とナノチューブ界面方向の熱伝導率の間におよそ500倍以上の差があることが明らかとなった。また、この巨大な異方性のために、熱流はナノチューブ凝集体内を不均一に流れ、それが凝集体の見かけの熱伝導率を低下させていることがわかった。

研究の意義と将来展望

本研究では、電子顕微鏡を用いてナノメートルスケールでの熱動態を可視化した。昨今の機能性材料の発展に伴い。微視的な構造に由来する複雑な熱輸送によって、巨視的な熱特性が決定されるケースは増加している。本研究は、カーボンナノチューブに限らない広範な熱制御材料において、微視的熱動態を明らかにするうえでの強力な手段を示したといえる。今後の展望として、より広い温度域で利用可能な温度マーカーとなる金属微粒子を利用した研究などが期待される。

担当研究者

特任研究員 濱﨑 拡、准教授 平原 佳織(工学研究科 機械工学専攻)

キーワード

カーボンナノチューブ/熱伝導/透過電子顕微鏡

応用分野

フレキシブルデバイス/熱電変換

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。