研究

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6Gの未来を切り拓くテラヘルツシリコンフォトニクス

准教授 冨士田 誠之(基礎工学研究科 電子光科学領域)

  • 理工情報系
  • 基礎工学研究科・基礎工学部

研究の概要

電子デバイスの動作極限領域である100ギガヘルツを超えるテラヘルツ帯の周波数を有する電磁波、テラヘルツ波の利活用が次世代情報通信システム6G とその未来に向けて、国内外で大いに注目を集めています。しかしながら、金属配線を用いた電子回路の損失は周波数が高いほど増大し、動作が困難になります。本研究では半導体材料シリコンを誘電体として着目し、金属を用いないテラヘルツ回路の実現を目指すテラヘルツシリコンフォトニクスを提案し、これまでに300ギガヘルツ帯送受信器の集積化と1テラヘルツ帯伝送路の開発などに成功しています。

研究の背景と結果

電波と光の境界領域のおよそ100ギガヘルツから10テラヘルツの周波数を有する電磁波、テラヘルツ波の利活用が次世代情報通信システム6G とその未来に向けて、国内外で大いに注目を集めています。電磁波の無線システム応用としては波長が長いほど物質の透過性が高く、機器の位置調整が容易になるため、周波数の低いマイクロ波帯の電波が主に利用されています。一方、周波数が高いほど広帯域性が得られ、大容量の情報伝送や高分解能センシングが可能になるため、周波数が高いテラヘルツ波が期待されています。ただし、通常の電子回路に用いられる金属配線では損失が周波数とともに増大し、テラヘルツ帯では動作が困難になります。以上の背景をもとに本研究では誘電体としての半導体材料シリコンに着目し、シリコン微細構造を用いたテラヘルツ集積デバイスの創成を目指した「テラヘルツシリコンフォトニクス」に関する研究開発を推進しています。
シリコンを用いた誘電体回路を実現するにはシリコンへのテラヘルツ波の閉じ込めが必要です。シリコンへ波長オーダーの微細な周期孔を形成した構造はフォトニック結晶と呼ばれ、フォトニックバンドギャップという効果によって、テラヘルツ波の閉じ込めが可能です。あるいは、シリコンと空気との屈折率の違いによる全反射現象を利用して、シリコン配線へテラヘルツ波を閉じ込めることができます。テラヘルツ波の吸収が小さい高抵抗シリコンを用いることで、1センチメートルあたりの損失が0.1デシベル以下という金属配線と比較して2~3桁小さい伝搬損失の回路が300ギガヘルツ帯から1テラヘルツ帯で実現されました。このように低損失な回路へのテラヘルツ光源および受信器といった能動素子の集積化技術として、80% 以上という高効率な入出力インターフェースの開発にも成功しております。

テラヘルツシリコンフォトニクス技術を用いたテラヘルツ回路の例。シリコン合
分波回路に300ギガヘルツ帯送受信器が集積化される。
作製した1テラヘルツ帯シリコン伝送路。

研究の意義と将来展望

今後、送受信デバイスの動作周波数の向上、集積デバイス数の増加、ビームステアリング機能の開発、CMOS トランジスタや光電変換機能の融合などを進め、高度なテラヘルツ集積回路を実現することで、100ギガビット毎秒を超える超大容量無線通信とミリメートル以下の高分解能センシング機能とが高度に融合するような6G とその未来の情報通信システムにつながります。その結果、経済発展と社会課題の解決の両立を目指す仮想空間と現実空間とを高度に融合させたサイバーフィジカルシステムの実現において鍵となる高度な情報通信技術が、携帯端末やドローン、自動運転、ロボット、遠隔医療、航空宇宙応用など、様々なシーンにおいて実装されることが期待されます。

担当研究者

准教授 冨士田 誠之(基礎工学研究科 電子光科学領域)

キーワード

6G/通信/テラヘルツ/シリコン/フォトニクス

応用分野

情報通信技術/スマートデバイス/センシング

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210429_2

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2023(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。