研究 (Research)
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超高安定・長時間測定可能な超解像ラマン顕微鏡 (Ultra-stable super-resolution Raman microscopy for long-term imaging)
講師 馬越 貴之(高等共創研究院/工学研究科 物理学系専攻)、教授 バルマ プラブハット(工学研究科 物理学系専攻) UMAKOSHI Takayuki (Institute for Advanced Co-Creation Studies) , VERMA Prabhat (Graduate School of Engineering)
研究の概要
近接場ラマン顕微鏡は、金属探針の先端に生成した微小な近接場光を用いて、ナノスケールの空間分解能(約10nm)で試料の化学結合状態などをラマンイメージングできる顕微法である。
本研究では、超高安定・長時間測定可能な近接場ラマン顕微鏡を開発した。従来は機械的なドリフトによって測定時間が30分程度に制限されていたが、このドリフトを自動補正する機構を開発することによって、原理上永遠にイメージング可能な近接場ラマン顕微鏡を実現した。実際に、先端二次元材料 MoS2(二硫化モリブデン)を6時間にわたって広範囲・高精細にイメージングできることを示した。
研究の背景と結果
近接場ラマン顕微鏡は、金属探針の先端に入射光を照射することによって生成する近接場光を用いて、約10nm の空間分解能で試料のラマン散乱光を検出できる強力な超解像顕微鏡である。ラマン散乱光からは、試料由来の分子振動や化学結合状態など豊富な光学・化学情報が得られる。試料を二次元走査することによって、超解像ラマンイメージングが可能である。
しかしながら、入射光の集光スポットから僅かに探針がドリフトするだけで、近接場光が消失してしまう。イメージング時間は、ドリフトが起きる前の30分程度に制限されており、それに伴って観察範囲も非常に狭かった(1 µm2程度)。測定安定性・再現性が低下するだけでなく、観察できる試料にも制限があった。そこで本研究では、金属探針先端を集光スポット中心に3次元的に保持する補正機構を独自開発し、超高安定な近接場ラマン顕微鏡を実現した。
集光スポット内に探針を保持するには、平面方向と垂直方向のドリフトを逐次補正する必要がある。平面方向は、主に探針が集光スポットから離れるようにドリフトする。垂直方向は、対物レンズのドリフトが主な原因である。平面方向は、ガルバノミラースキャナーを導入し、探針先端の散乱像を一定時間ごとに取得することによって、探針のドリフト量を検出・補正した。垂直方向は、ガイドレーザーを導入し、垂直方向のドリフトを横方向の位置ずれとしてポジションセンサーで検出することによって、対物レンズポジショナで補正した。
開発した補正機構を用いて、実際にラマン信号が30分以上経っても全く劣化しないことを確認した。加えて、二次元材料 MoS2をマイクロスケールで極めて広範囲に6時間かけて超解像ラマンイメージングすることにも成功した。広範囲を網羅的に観察できるため、狭い範囲を観察する従来法では見逃され得る、欠陥構造由来のレアなラマン信号(全体の0.2 %に分布)を発見できることも示した。
研究の意義と将来展望
従来は測定時間の制限から、非常に狭い範囲しか観察できなかったが、高安定・長時間イメージングにより、例えばマイクロサイズの半導体トランジスタを、デバイススケールで網羅的にイメージング・分析できるようになる。加えて、ラマン信号が弱くそもそもイメージングが不可能だった生体試料なども、観察できるようになる可能性がある。そもそも、安定的に再現良く測定できるようになるため、装置としての実用性を大きく向上することができた。真に実用に足る超解像ラマン顕微鏡として、先端材料から生命科学まで様々な分野に貢献し得る成果である。
担当研究者
講師 馬越 貴之(高等共創研究院/工学研究科 物理学系専攻)、教授 バルマ プラブハット(工学研究科 物理学系専攻)
キーワード
近接場光学顕微鏡/ラマン分光法/超解像ラマン顕微鏡
応用分野
先端材料/先端電気電子デバイス/生命科学
参考URL
http://naspec.ap.eng.osaka-u.ac.jp/jp/index.html
https://researchmap.jp/TakayukiUmakoshi
https://researchmap.jp/Verma_Prabhat?lang=ja