研究 (Research)

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耐性微生物群集の導入による嫌気性消化のアンモニウムおよび塩分による阻害の緩和 (Mitigation of annmonia and/or salt inhibition in anaerobic digestion through bioaugmentation with tolerant microbial consortia)

教授 池 道彦、准教授 井上 大介(工学研究科 環境エネルギー工学専攻) IKE Michihiko , INOUE Daisuke (Graduate School of Engineering)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 工学研究科・工学部 (Graduate School of Engineering, School of Engineering)

English Information

研究の概要

嫌気性消化によるメタン回収は、処理対象とする廃棄物、排水中に存在するさまざまな因子により大幅に減少するが、特に高濃度のアンモニウムおよび塩分は重要な阻害因子と認識されており、その阻害効果の緩和技術の開発が望まれている。本研究では、嫌気性消化において高濃度のアンモニウムや塩分により阻害を受けやすい微生物反応を解明するとともに、高濃度のアンモニウムや塩分に耐性を示す嫌気微生物群集を構築し、それらを嫌気性消化プロセスに導入することにより(バイオオーグメンテーション:bioaugmentation)その阻害効果を緩和し、阻害因子の存在しない系と同等の効率でメタン生成を行える技術を確立した。

研究の背景と結果

高濃度のアンモニウムや塩分による嫌気性消化の阻害は、有機性廃棄物・排水からのメタン回収において解決すべき重要な課題となっている。本研究は、多様な微生物の相互作用を通じて行われる嫌気性消化におけるアンモニウム・塩分阻害のメカニズムを微生物学的側面から明らかにし、その知見に基づいて有効な阻害緩和技術を確立することを目指したものである。
高濃度のアンモニウム ( 概ね3 g-NH4-N/L 以上 )、あるいは塩分(概ね10 g-NaCl/L 以上)による嫌気性消化の阻害は共通して、主に複雑な有機化合物の加水分解、共生的プロピオン酸酸化、酢酸資化性メタン生成に関わる微生物群の阻害により生じることが明らかとなり、その緩和のためには、阻害因子存在下においてもこれら微生物群集の機能を十分に発揮させることが重要であるものと考えられた。
そこで、高濃度のアンモニウム(5 g- NH4-N/L )、および塩分(30 g-NaCl/L)に対して嫌気条件下で馴致した海洋底質由来の耐性嫌気微生物群集を構築して、嫌気性消化系に導入するバイオオーグメンテーションを試行した。その結果、高濃度のアンモニウム、あるいは塩分の存在下においても、バイオオーグメンテーションを行った場合には、メタン生成の阻害が大幅に緩和され、最終的にそれぞれの阻害因子が存在していない対照系とほぼ同等のメタン生成が確認された。また、微生物群集解析により、これらの試験において、導入した耐性微生物群集に由来する水素資化性メタン生成菌群が機能を発揮し、土着の酢酸資化性メタン生成菌の阻害によるメタン生成の低下を緩和するとともに、副次的に他の微生物群の阻害をも低減させたことが強く示唆された。
耐性微生物群集の嫌気性消化系への植種量や、そのタイミングを最適化することにより、バイオオーグメンテーションの効果を最大限に発揮させ、アンモニウム、塩分という阻害因子の存在下においても、効率的で安定な嫌気性消化が行われるものと考えられる。

研究の意義と将来展望

本技術により、嫌気性消化による処理-メタン回収の対象を、高濃度のアンモニウムや塩分を含む廃棄物や排水にまで拡大することができるようになり、環境保全の高度化や循環型社会・脱炭素社会の構築に大きな貢献をもたらすことが期待される。後続研究においては、アンモニウム、塩分以外の嫌気性消化の阻害因子に関しても、耐性微生物のバイオオーグメンテーションによる阻害緩和の可能性を見出しており、本技術により嫌気性消化が適用できる廃棄物・排水の範囲をさらに拡大し得るものと考えている。現在は本技術を実規模の施設へ適用するためのスケールアップ研究を進めている。

担当研究者

教授 池 道彦、准教授 井上 大介(工学研究科 環境エネルギー工学専攻)

キーワード

嫌気性消化/アンモニウム/塩分阻害/耐性微生物群集/バイオオーグメンテーション

応用分野

エネルギー・資源回収/排水・廃棄物処理

参考URL

http://www.see.eng.osaka-u.ac.jp/seewb/seewb/ikelab/
https://researchmap.jp/ikemichi
https://researchmap.jp/DaisukeINOUE

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。