研究 (Research)
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ナノ構造含有有機薄膜の構造変化を利用した熱スイッチ材料の開発 (Development of thermal switch material using structure change in organic film including)
教授 中村 芳明、助教 石部 貴史(基礎工学研究科 システム創成専攻) NAKAMURA Yoshiaki , ISHIBE Takafumi (Graduate School of Engineering Science)
研究の概要
様々な熱制御素子の中でも温度制御型の熱スイッチは、環境温度に応じて自発的に熱伝導率を変えられるといった特徴を有する。従来の熱スイッチ研究は、On/Off 比の向上を目指したものばかりであった。一方で、様々な環境で使用することを考えると、スイッチング温度を自在に変える技術も必要であるが、これまでに実験的に報告した例は無かった。本研究では、異方性ナノ構造を内包した液晶性ブロックコポリマー薄膜の秩序 – 秩序転移に注目し、自在なスイッチング温度制御を実現することを目指した(図1)。液晶分子の側鎖のメソゲン種を変えたところ、秩序 – 秩序転移温度が変化し、スイッチング温度制御の変調に成功した(図2)。本成果は、熱スイッチを様々な環境温度で利用できる可能性を大いに高めるものと言える。
研究の背景と結果
フレキシブル、低コスト電子デバイスの実現を目指して、高機能性有機材料の研究が進められてきた。近年のナノテクノロジーの進歩に伴い、電子デバイス内の発熱問題が顕著化し、この熱を有効利用するための熱制御素子に注目が集まっている。その一つに、熱伝導の促進・阻害を切り替える熱スイッチがある。これまでの熱スイッチ研究では、様々な外的トリガーを用いた機構の提案が行われてきた。特に温度変化に基づく熱スイッチは、外的トリガーの必要ない自立的な熱スイッチと言える。先行研究では、従来の熱スイッチ研究は、On/Off 比の向上を目指したものばかりであった。しかし、様々な環境で使用することを考えると、スイッチング温度を自在に変える技術も必要である。
そこで我々は、異方性ナノ構造を含有する液晶性ブロックコポリマーに注目した。このブロックコポリマーは、温度上昇に伴い、ブロックコポリマー内のナノ構造が、シリンダ(低温相)から球(高温相)へと変化する(図1)。さらに、この構造変化温度が液晶分子側鎖のメソゲン基の種類に依存する。本研究では、このメソゲン基の種類を変えることで、熱スイッチのスイッチング温度を操作可能であると考えた。メソゲン基の種類を変えて360 K、390 K の秩序 – 秩序転移温度を示す2種類のブロックコポリマーを用意した。これらの熱伝導率を測定したところ、それぞれ異なるスイッチング温度で、構造変化に対応して熱伝導率が変化した(On/Off 比 ~ 2)(図2)。
本成果は、分子構造制御によるスイッチング温度操作の新方法論を提示するものと言える。さらに、熱伝導率の絶対値変化比は、ブロックコポリマー内部のナノ構造の異方性、及びナノ構造界面での散乱現象に基づくことを理論的に明らかにした。これにより、有機材料中の熱輸送物理の理解がより前進すると期待される。
研究の意義と将来展望
本研究は、液晶分子の側鎖のメソゲン種と秩序 – 秩序転移温度の関係に着眼し、これまで実証されてこなかった自在な熱伝導率スイッチング温度の変調を初めて実現した。このスイッチング温度の自在操作法は、スイッチング温度が分子構造に依存すれば適用できるため汎用性が高く、今後の熱スイッチ研究に大いに活かされる。将来的には、本研究成果は、低コスト形成できる熱制御有機材料の開発を導き、熱利用社会の実現に貢献すると期待される。
担当研究者
教授 中村 芳明、助教 石部 貴史(基礎工学研究科 システム創成専攻)
キーワード
熱制御技術/ナノテクノロジー/有機薄膜/構造相転移
応用分野
エネルギー再利用/有機エレクトロニクス
参考URL
http://www.adv.ee.es.osaka-u.ac.jp/
https://researchmap.jp/research_nakamura
https://researchmap.jp/t-ishibe