研究 (Research)

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固溶原子によるチタン積層造形材の等方的な力学機能化 (Achieving near-isotropic high tensile performance in additively manufactured Ti through interstitial solute influences)

特任助教 Issariyapat, Ammarueda、教授 梅田 純子(接合科学研究所) Issariyapat Ammarueda , UMEDA Junko (Joining and Welding Research Institute)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 接合科学研究所 (Joining and Welding Research Institute)

English Information

研究の概要

高比強度と優れた生体親和性を有するチタンを対象に、金属積層造形(以下、AM)プロセスを通じて、低コスト化を実現する革新的な完全レアメタルフリー・チタン合金における高強度と高延性の両立(力学機能化)に向けた新たな合金設計原理の構築を目指している。本課題の実現には、バナジウムをはじめとするレアメタルを含む高価な AM用高品質チタン粉末の使用や、強度や延性など力学特性の積層方向に対する依存性といった課題がある。
まず、廉価な窒素成分を固溶強化元素として含むCore-Shell(コア・シェル)構造Ti-(N)粉末を開発した。本粉末を出発原料に用いたチタン積層造形材では、窒素固溶原子を活用した結晶集合組織の微細化と配向性制御を通じて高強度と高延性の両立を達成し、さらにこれら力学特性の等方化に成功した。
本成果は、汎用 Ti-6Al-4V 合金の性能を凌駕する極めて優れた力学特性を有するレアメタルフリー・チタン合金として、広範な製品・用途への展開の可能性を明らかにした。

研究の背景と結果

航空機や生体材料などで広く使用されるチタン合金は、レアメタルを含む Ti-6Al-4V 合金である。他方、国際情勢の変化に伴う供給懸念や価格上昇のリスクから、元素戦略に基づきレアメタル元素に依存しない新たなチタン合金設計が求められ、ユビキタス元素の活用が提案されている。酸素、窒素、炭素、鉄などの資源的に普遍的に存在するユビキタス元素は、安定供給が可能で廉価な成分である。
しかしながら、これらはチタンの延性低下を招く不純物元素として位置付けられ、その上限値は JIS/ASTM で制限されている。一方、金属 AM 法における課題として、チタン粉末にレーザを照射して溶融と急冷凝固を繰り返す過程で造形方向に沿って結晶粒が成長し、力学特性の積層方向に対する強い依存性(異方性)が生じる。
そこで本研究では、このような問題を克服するため、低コスト化を実現する革新的な完全レアメタルフリー・チタン合金における力学機能化に向けた新たな合金設計原理の構築を目指して、コア・シェル構造 Ti-(N) 粉末を出発原料とし、窒素成分の固溶現象を利用した高強度と高延性の両立を可能とする新たなチタン積層材を開発した。その際、AM 法の特徴である超急冷凝固過程において、窒素原子はα -Ti 結晶粒の成長を妨げ、ランダムな結晶方位を持つ準安定マルテンサイト相の核生成を通じて、α ‘ 結晶粒の微細化が促進されると同時に、結晶配向性が緩和することを見出した。その結果、上記の力学特性の異方性の低減を達成した。
このようにレアメタル成分を一切含むことなく、窒素のみの添加によって汎用 Ti-6Al-4V 合金の性能を凌駕する極めて優れた力学特性を発現するレアメタルフリー・チタン合金の創製に成功した。

研究の意義と将来展望

高強度・高延性かつ両特性の等方化を達成した廉価な窒素含有チタン積層造形材は、高価な汎用 Ti-6Al-4V 合金に代わり、コスト効率の高い新規チタンとして幅広い産業分野での適用・拡大が期待されている。
今後は、鉱物資源に乏しい我が国がチタン素材産業を牽引すべく、地政学リスクを伴うレアメタルへの依存性からの脱却に加えて、サーキュラーエコノミーの観点から高価な原料粉末の再生・再資源化技術の構築に係る取り組みを積極的に推進する。

担当研究者

特任助教 Issariyapat, Ammarueda、教授 梅田 純子(接合科学研究所)

キーワード

チタン(Ti)/窒素(N)/引張特性/積層造形(AM)

応用分野

自動車/医療・ヘルスケア

参考URL

http://www.jwri.osaka-u.ac.jp/~dpt6/index.html
https://researchmap.jp/ammarueda
https://researchmap.jp/umeda

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。